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研究概要

 当研究室では、「機械工学に立脚したマイクロナノスケールの加工・計測技術を活用して、いかにライフサイエンス分野にブレイクスルーをもたらすか」を念頭に、バイオエンジニアリング学際領域の研究をおこなっています。我々が利用するマイクロ・ナノ加工技術は、Micro Electro Mechanical Systems (MEMS)を製作するために開発されてきた技術であり、電子線や紫外線のリソグラフィ技術を用います。これによって製作できる構造は数10 nmから数100 μmであり、生体材料ではDNA/RNAやタンパク質1分子から細胞、さらに細胞凝集体(オルガノイドやスフェロイド)のサイズに対応します。マイクロ・ナノ加工技術によって可能になる物理化学的な微小環境の制御によって、生体分子や細胞の機能がどのように変わるか、逆にどのように変えられるか、さらにはどのように産業応用に向けた利用が可能になるかを考えて研究を展開しています。現在、大きく分けて三つのテーマについて研究を進めています。

  1. 腎臓の生理機能を再現したOrgan-on-a-Chip(Microphysiological Systems)の開発
  2. 灌流可能なオンチップ血管網を用いたメカノバイオロジーや器官形成の基礎研究
  3. マイクロ・ナノ加工基板を用いたモータタンパク質の生物物理学

 

1. 腎臓の生理機能を再現したOrgan-on-a-Chip(Microphysiological Systems)の開発

 近年、微小流体デバイス内で細胞を培養することにより、生体内における細胞間相互作用・物理的刺激を模倣してヒト臓器の生理機能を再現できるOrgan-on-a-Chipという技術が注目されています。我々はマイクロ加工技術とヒトiPS細胞由来の各細胞を利用して、腎臓の糸球体における血液ろ過機能および近位尿細管における再吸収機能を生体外で再現可能な微小流体デバイスの開発を行っています。これらのデバイスを利用することで、長期間の試験が必要とされる創薬研究の加速やサプリメント・薬剤開発におけるスクリーニング・腎毒性試験などが可能になると期待されます。

R. B. Sadeghian et al., The 22nd International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciences (MicroTAS 2018), Kaohsiung, Taiwan, 2018.

 

2. 灌流可能なオンチップ血管網を用いたメカノバイオロジーや器官形成の基礎研究

微小流体デバイスの利用により、シャーレを用いた二次元培養では困難であった生体内組織の生理機能を三次元で再現することができます。我々は、微小環境において血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などの拡散や濃度勾配を制御することで、血管内皮細胞の持つ血管新生能を利用し、2 cm角のチップ上に血管網を形成する技術を確立しました。さらに、スフェロイド(細胞凝集塊)に対し血管網を内部まで侵入させて灌流することに成功しました。流量を制御すれば血管内壁へのせん断応力を規定することができ、力学的刺激に応じた血管内皮細胞の振る舞いを調べるメカノバイオロジー研究に利用できます。また、血管網を通して様々な生理物質をヒトiPS細胞由来細胞を用いたスフェロイドに与えて創薬研究や薬物動態研究に利用したり、灌流長期培養により発生生物学に利用するなど様々な研究を展開しています。

Y. Nashimoto et al., J. Vis. Exp., 134, e57242, 2018.
Y. Nashimoto et al., Integr. Biol., 9, 6, 506-518, 2017.

 

3. マイクロ・ナノ加工基板を用いたモータタンパク質の生物物理学

 生体内では、細胞やタンパク質が絶えず動いています。本研究室では、動くタンパク質であるモータタンパク質を生体外に取り出すことで、マイクロ・ナノ機械の駆動力として利用することを目指しています。また、生体内におけるタンパク質の機能解明のための、マイクロ・ナノデバイスの作製もおこなっています。

3-1. 微小管の剛性(ヤング率)測定とその制御による運動方向の規定

 微小管はキネシンが固定されたガラス基板上を動きます。このとき、微小管の先端は常にブラウン運動にさらされながら、次に結合するキネシンを見つけます。従って、微小管先端の電荷や剛性が異なれば、その運動方向に差異が生じます。これを逆に利用して、電荷や剛性を工学的に設計することで運動方向を制御することに成功しました。図中では、二種類の微小管が異なる方向に動いている様子がわかります。(ミシガン大学、マサチューセッツ大学、ウィスコンシン大学との共同研究)

N. Isozaki et al., Sci. Rep., 5, 7669, 2015.
N. Isozaki et al., Sci. Robot., 2, 10, eaan4882, 2017.

 

3-2. 分子輸送と結合を可視化するナノシステムの創製

 分子同士の化学反応において、それを運ぶ溶媒は水溶液がよく使われます。しかし、反応分子自身が輸送されれば、溶媒による分子輸送は不要になるのではないでしょうか。このような発想に基づき、モータタンパク質により親和性を有する分子を輸送して、その結合を可視化したのがこの研究です。ムービーの中では輸送分子とモータタンパク質の間に緑と赤の量子ドット(Q-dot)を挿入して、分子の可視化を実現しています。

K. Fujimoto et al., ACS Nano, 7, 447455, 2013.

3-3. ダイナミックPDMSチャネル(流路)の形成による分子輸送計測

 マイクロチャネル内では、モータタンパク質によるアクティブな分子輸送と拡散による輸送を区別することが困難です。そこで、本研究ではPDMSの弾性を効果的に利用して、マイクロチャネルを開閉するデバイスを設計しました。これにより、ガラス表面に構築したモータタンパク質の分子系でアクティブ輸送される分子のみに着目して評価できるようになりました。

K. Fujimoto et al., Lab Chip, 15, 2055-2063, 2015.